浦和地方裁判所 昭和56年(ワ)1112号 判決 1982年9月27日
原告 甲野春子
右法定代理人親権者 甲野太郎
甲野花子
右訴訟代理人弁護士 山口広
同 長谷一雄
被告 株式会社 埼玉こいずみ
右代表者代表取締役 小泉要七
被告 浜田卓二郎
右被告二名訴訟代理人弁護士 熊谷隆司
被告 水谷純一
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金二〇〇五万九一五一円及びこれに対する昭和五六年八月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
「1 被告らは、原告に対し、連帯して金三四五五万六二二二円及びこれに対する昭和五六年八月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。
二 被告株式会社埼玉こいずみ(以下「こいずみ」という。)、同浜田
「1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二当事者の主張
一 原告―請求原因
1 交通事故の発生
原告は、昭和五五年八月三一日午前五時四〇分ころ、原告の父甲野太郎の運転する同人所有の普通乗用自動車(大宮五七な一四五〇、以下「乙車」という。)に同乗して埼玉県川口市道一一〇号線を産業道路方面から並木元町方面へ時速約三〇キロメートルで進行中、同市西青木二丁目二番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)において、並木元町方面から対向車線にはみ出して進行してきた被告浜田がその所有者である同こいずみから借り受けて同水谷に運転させていた普通乗用自動車(川崎三三さ四六九、以下「甲車」という。)に衝突された(以下「本件事故」という。)。
2 原告の傷害及び治療の経過
本件事故により乙車の助手席に坐っていた原告は、フロントガラスに顔面を打ちつけ、顔面切創の傷害を受け、本件事故発生日から同年九月一一日まで(実日数一〇日間)川口市民病院へ通院して治療を受けた。
ところが、原告は、右傷害のため、顔面に一ないし三ミリメートルのいわゆるケロイド状の線状創痕が残ったため、同年九月一二日以降東京都港区所在の虎の門病院形成外科に通院(実日数三八日)及び入院(昭和五六年三月三日から同月二四日まで二二日間)して治療を受けた結果、右創痕状態はやゝ改善されたものの、右傷害によって顔面に全体で約二四センチメートルの線状瘢痕が残るという後遺症を受けた。
3 責任原因
(一) 不法行為責任(民法七〇九条、七一五条)
被告水谷は、前記日時ころ甲車を運転して市道一一〇号線を並木元町方面から産業道路方面へ向って進行中、前方道路左側に普通乗用自動車が駐車してあったため、同車両の右側を通過しようとしたのであるが、右道路は追い越しのため対向車線にはみ出すことが禁止され、最高速度も時速四〇キロメートルと指定されている場所であるから、対向車である乙車の通過を待って進行すべきであるのにこれを怠り、前方約八五メートルに乙車が接近している状況の下において、時速約五五キロメートルで対向車線にはみ出して自車を走行させたため、本件事故が発生した。
従って、本件事故により原告が被った損害について、被告水谷には民法七〇九条の責任があり、同被告を雇用して甲車を運転させていた被告浜田には民法七一五条に基づく責任がある。
(二) 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)
被告こいずみは、甲車の所有者として、同浜田は、同こいずみから甲車を借り受けて、これを同水谷に運転させ、いずれも甲車を運行の用に供していたのであるから、被告こいずみ、同浜田には、本件事故により原告が被った損害について自動車損害賠償保障法三条所定の責任がある。
4 損害
(一) 治療関係費 金二六万六九一三円
(1) 治療費 金一一万七七九三円
川口市民病院分 金八万三五六〇円
虎の門病院分 金三万四二三三円
(2) 入院雑費 金一一万円
一日金五〇〇〇円の割合で二二日分合計金一一万円である。
(3) 通院交通費 金三万九一二〇円
川口市民病院へのタクシー代一日往復金七二〇円の一〇日分として七二〇〇円及び虎の門病院へのバス、電車運賃一日往復金八四〇円の三八日分として金三万一九二〇円
(二) 逸失利益 金一九九〇万七一〇二円
原告の受けた前記顔面線状痕の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表の後遺障害等級第七級一二の女子の外貌に著しい醜状を残すものに該当し、原告は右後遺障害によりその労働能力の五六パーセントを喪失した。原告は、本件事故当時六歳の女児であったが、原告の就労可能年数は、一八歳から六七歳までの四九年間であるから、その間の逸失利益を昭和五五年賃金センサスによる高校卒業女子労働者の年間平均給与額金一八九万四五〇〇円を用い、中間利息の控除につき新ホフマン係数を使用して算定すると次のとおり金一九九〇万七一〇二円(円未満切捨)となる。
189万4500円×18.764×0.56=1990万7102円
なお、原告の逸失利益を考えるにあたっては、単に人間の能力の生物的、機能的側面にのみ立脚するのではなく、日常生活動作から対人的、社会的動作に至るまでの幾重もの活動について考慮し、そうした中での能力障害を逸失利益として算定すべきところ、原告の前記後遺障害は、社会的な行為の面における障害に加えて生活動作レベルの能力障害が主として存在するものであるから、それが労働能力に及ぼす影響はきわめて大きいものである。例えば、就職の際も右後遺障害のために差別されるので職業選択の範囲は著しく制限されるうえに職場における対人関係や仕事を通じての対外的折衝等においても大きな支障が生じるし、家庭の主婦となっても隣人等との円滑な交際に影響を受けることは必至である。従って、原告の後遺障害は、他に例を見ないほど深刻かつ重大なものである。
(三) 慰謝料 金一一五〇万円
(1) 入・通院慰謝料 金一五〇万円
原告の本件事故による入・通院慰謝料は、金一五〇万円が相当である。
(2) 後遺症慰謝料 金一〇〇〇万円
原告は、本件事故により前記のとおり後遺障害を受け、幼い心に耐えがたい苦痛を日々刻まれ、今後もそれが続いていく。これを金銭で慰謝するには金一〇〇〇万円が相当である。
仮に、前記(二)記載の損害が逸失利益として認められないならば、これに金一〇〇〇万円を加えた金二九九〇万七一〇二円を後遺症慰謝料として請求する。
(四) 損害の填補
原告は、川口市民病院及び虎の門病院の治療費分として被告らから金一一万七七九三円の支払を受けた。
(五) 弁護士費用 金三〇〇万円
原告は、原告訴訟代理人に対し、本件交通事故による損害賠償請求の訴訟遂行を委任し、本件判決時に請求額の約一割に当る金三〇〇万円を費用及び報酬として支払う旨約した。
よって、原告は被告らに対し、連帯して右4の(一)ないし(三)の損害合計額から(四)の填補額を控除しその残額に(五)の金額を加えた金三四五五万六二二二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五五年八月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告こいずみ、同浜田―請求原因に対する認否・反論
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実につき、(一)のうち、被告浜田が、同水谷を雇用し、同被告に甲車を運転させていたこと、同被告が原告の主張する日時ころ、本件事故現場付近を甲車を運転して通りかかり、本件事故が発生したことは認めるが、その余は否認する。追い越しとは車両が当該進路をかえて進行中の車両の前方に出ることを言うのであって、駐車中の車両の前方に出ることは追い越しではないから、甲車が追い越しのため対向車線にはみ出すことを禁止されている本件事故現場付近において駐車車両の右側部分を走行して対向車線にはみ出したとしても、これが法令等に違反した走行ではない。(二)は認める。
4 同4の事実につき、(一)は不知。(二)のうち、原告が本件事故当時六歳の女児であったことは認めるが、原告の主張する後遺障害等級は否認する。その余の事実は知らない。原告の主張は争う。原告の後遺障害が、原告主張のとおりの後遺障害等級に該当するとしても、外貌醜状は、外貌が稼働能力を左右する女優や歌手等特殊な場合を除いて労働能力に影響を与えない。右のような特殊な場合に該当しない原告については、外貌醜状の後遺障害が残存するからといって、直ちに労働能力が低下したものとはいえないし、仮に労働能力の低下がありうるとしても、それによる損害は具体的かつ現実的なものでなければならないところ、原告はその点を何ら明らかにしていないから、原告の逸失利益の主張は理由がないというべきである。(三)は争う。(四)は認める。(五)は不知。
5 過失相殺
原告の父太郎は、乙車を運転して本件事故現場にさしかかった際、対向車線前方右側に駐車中の車両があり、その後方から甲車が駐車車両の向って左側を通過すべく乙車の走行している車線内に進入し接近してきたのを認めたのであるから、甲車の速度、位置、道路の幅員等からみて甲車と駐車車両の付近において衝突するかも知れない危険のあることを当然予測して、甲車の動向及び自車の前方を注視して事故の発生を防止すべく減速する等の状況に応じた適切かつ安全な運転をすべきであったのに、これを怠り自車の速度(時速三〇キロメートル)を変える等の措置もとらず、漫然と駐車車両の左側を通過しようとしたため本件事故が発生した。従って、本件事故の発生については、乙車を運転していた原告の父にも過失があるのであるから原告の損害の算定にあたっては、同人の過失を原告側の過失として斟酌すべきである。
三 原告
被告こいずみ、同浜田の主張二5の事実は否認し、その主張は争う。
四 被告水谷は、公示送達の方法による適式の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。
第三証拠《省略》
理由
第一 事故の発生
一 原告は、昭和五五年八月三一日午前五時四〇分ころ、原告の父甲野太郎の運転する同人所有の乙車に同乗して川口市道一一〇号線を産業道路方面から並木元町方面へ向って進行中、同市西青木二丁目二番一号先路上において、並木元町方面から対向車線内にはみ出して進行してきた被告浜田がその所有者である同こいずみから借り受けて同水谷に運転させていた甲車に衝突されたことは、原告と被告こいずみ、同浜田との間では争いがなく、同水谷との間においても、いずれも《証拠省略》によりこれを認めることができる。
二 原告の受傷とその治療経過並びに後遺障害
《証拠省略》によれば、
1 原告は、昭和四九年四月二日生れの女子(本件事故当時幼稚園児)で、本件事故当時乙車の助手席に同乗していたが、本件事故によって甲車の右側前部が乙車の右側前部に衝突したためにその際の衝撃で顔面を乙車のフロントガラスに打ちつけ顔面切創の傷害を受けたこと、
2 原告は、右傷害により、昭和五五年八月三一日から同年九月一一日までの間(実日数は一〇日間)、川口市民病院へ通院して治療を受けたものの、みけん前額部に約四センチメートル、右まゆげ部に約一・五センチメートル、左眼瞼に約四センチメートル、鼻背部に約二センチメートル、右口角から頬部を経て右耳前部まで約一一センチメートル、左口角から頬部を経て左耳前部まで約九センチメートル、顔面各部に以上の長さの赤色を呈するいわゆる肥厚性瘢痕ケロイドが残るようになったこと。
3 そこで原告は、同月一二日から東京都港区所在の虎の門病院形成外科にて通院のうえ治療を受けたところ、昭和五六年三月ころ症状が一応鎮静したので、外貌の醜状を幾分なりとも改善するため、同月三日から二四日まで同病院へ入院のうえ形成手術を受けたこと。右手術の結果、赤色は概ね消去され、創痕の目立ち具合はやや改善されたものの、前額中央、みけん、左眼瞼、鼻背、両口角より耳部と外貌上最も目立つ部位のほぼ全体に総計で約二五センチメートルを超える創痕が残り、それがところどころ肥厚状態となっていること。
4 原告の診療にあたった虎の門病院の医師は、原告の右後遺症は、昭和五六年九月ごろには症状が固定し、将来の形成手術によって右創痕の目立ちを多少改善することはできても、顔の表情を変えたときに生ずる顔面の歪みやひきつれは勿論のこと静的状態における創痕の目立ちを消失させることは医学上できない旨診断していること
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、原告は、本件事故により顔面切創の傷害を受けた結果、自動車損害賠償保障法施行令別表の第七級一二に該当する女子の外貌に著しい醜状を残す後遺障害を受け、その症状は昭和五六年九月ごろ固定したものと認めることができる。
第二 責任原因
一 被告水谷の過失と責任
1 《証拠省略》によれば、本件事故現場の道路は、道路の両端に約二メートル幅の歩道が設けられ、車道が片側約三・九メートル二車線の平たんなアスファルト舗装道路であり、最高速度時速四〇キロメートル、追い越しのための右側部分はみ出し禁止の指定がなされている場所であったこと、本件事故当日は小雨が降っていて路面は湿潤状態であったところ、甲車を運転していた被告水谷は、前方道路左側に駐車中の普通乗用自動車を認めたため、その右側を通過すべく対向車線に寄ったが、その時前方約八五メートルの地点に対向車線を自車の方向へ接近してくる乙車を発見したのに、そのまま進行しても乙車が駐車車両の右側を通過するまでに自車を通過させることができると判断して時速約五五キロメートルで自車のほぼ全部を対向車線内にはみ出させて進行した結果、乙車との距離約四六メートルに接近した時危険を感じて急制動をかけたものの、雨のためタイヤがスリップして間に合わず、駐車車両手前の横断歩道のある交差点を通過した直後に対向車線内で自車の右前部を乙車の右前部に衝突させたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、本件事故は、被告水谷が対向車線内に接近してくる乙車を認めながら、駐車中の車両の右側を通過した後に乙車と擦れ違うものと軽信し、近くには横断歩道の設けられた交差点があり、道路の幅員も比較的狭いうえに路面も雨でスリップし易くなっていたのであるから、乙車の通過を待ってから進行すべき注意義務があるのにこれを怠り指定速度を時速約一五キロメートル超える速度で対向車線内を走行して無理に駐車車両の右側を通過しようとしたため発生したものと認められる。
2 従って、本件事故は、被告水谷の過失により発生したものといえるから、同被告は民法七〇九条により原告が本件事故によって被った損害を賠償すべき責任があるものというべきである。
二 被告こいずみ、同浜田の責任
被告こいずみは甲車の所有者であり、同浜田は、甲車を右被告から借り受けて、本件事故当時これを自己の雇用していた被告水谷に運転させ、ともに甲車を運行の用に供していたことは、原告と被告こいずみ、同浜田との間では争いがない。
そうすると、本件事故によって原告が被った損害について被告こいずみは自動車損害賠償保障法三条に基づく責任を、同浜田は、右責任のほか同水谷の使用者として民法七一五条に基づく責任をそれぞれ負わなければならないものというべきである。
第三 損害
一 治療関係費 金一七万一四三三円
1 治療費 金一一万七七九三円
《証拠省略》によれば、本件事故による原告の治療費は、川口市民病院分が金八万三五六〇円、虎の門病院分が金三万四二三三円の合計金一一万七七九三円であることが認められ、これに反する証拠はない。
2 入院雑費 金三万三〇〇〇円
原告が昭和五六年三月三日から同月二四日までの二二日間虎の門病院へ入院したことは前示のとおりであり、原告の年齢等を考慮すると、その間の入院雑費(保護者らの付添関係費を含む。)として少なくとも一日当たり金一五〇〇円の割合による二二日分合計金三万三〇〇〇円を支出したことは経験上容易に推認される。
3 通院交通費 金二万〇六四〇円
原告が昭和五五年八月三一日から九月一一日までの間川口市民病院へ一〇日間通院したことは前示のとおりであり、《証拠省略》を総合すると、原告は、同年九月一二日から虎の門病院へ一六日間それぞれ通院したことが認められ、これを超える日数を同病院へ通院したと認められる証拠はない。そして、その間の通院に要した交通費は、弁論の全趣旨によれば川口市民病院分は一日当り金七二〇円の合計金七二〇〇円、虎の門病院分は一日当り金八四〇円の合計金一万三四四〇円を下回わらないものと認められる。
二 逸失利益 金七七〇万五五一一円
1 原告の受けた後遺障害は、前示のとおり顔面の目立つ部分に全体で二五センチメートル余にも及ぶ線状の肥厚性瘢痕が残ったうえに、表情を変える場合には顔面の歪みやひきつれが生ずるというものであるが、かような外貌醜状の存在によって、身体的機能そのものには支障はないとしても、女子である原告が将来就職する場合においては、その選択できる職業、職場の範囲は著しく制限される蓋然性が高いことは経験則上明らかである。このことは、単に女優や歌手、ホステス等の容貌が重視される特殊な職業のみならず、一般的に、接客に携わる職業もしくは人の面前や人目に触れる場所において働くことが要求される職業、更には右のような職業ではなくとも、一般に多数の応募者が集まる労働条件のよい企業等において顕著であること、加えて、我国においては企業等の大部分が終身雇用、年功序列賃金制度を採っている関係上、特に原告のような外貌醜状のある女子が転職や再就職の機会を得ることは勿論のこと、仮にその機会が与えられたとしても従来以上の労働条件の職業に就くことは事実上きわめて困難なことは公知の事実である(賃金センサスによれば、女子労働者の企業規模による賃金格差は、むしろ中高年において顕著な拡大をみる。)。
従って、原告は、前記外貌の醜状によって、その労働能力の一部を喪失したものというべきであり、かつそれによって、将来の稼働収入の喪失が生じることが十分予測できる以上、これを一定の基準に従って算定することが相当であるといわなければならない。
被告は、原告はその主張するところの外貌醜状によって何ら身体的機能を喪失したものではないから、それにともなって労働能力が低下するということもあり得ないし、仮に労働能力の低下があったとしても、原告がその後遺障害によって現実に被る具体的損害の額については何ら明らかにしていない旨主張するが、右に述べたとおり採用の限りでない。
そして、原告の労働能力喪失率は、原告の前示年齢、性別、後遺障害の部位、程度及び将来の見通し等を総合すると労働可能期間を通じ四〇パーセントと認めるのが相当である(将来、形成手術により就業の中断も予想されるところである。)。なお、後遺障害による労働能力喪失率については、労働省労働基準局長の通牒(昭和三二年七月二日付基発第五五一号)の労働能力喪失率表の基準が用いられることがあるが、右基準は労働行政処理上の基準であるから、有力な資料ではあるが、すべての場合に右基準による喪失率が即適用されるものと解するのは相当ではないものというべきである。
2 前示のとおり、原告は本件事故時六歳(幼稚園児)、その後遺障害の症状が固定したのが七歳であったから、その就労可能年数を四九年(一八歳から六七歳・本件事故後一二年から六一年)とし、昭和五五年の賃金センサスによる高校卒女子労働者(パートタイム労働者を除く。)の年間平均給与額金一九〇万四一〇〇円を基準に、原告の後遺障害による逸失利益の本件事故発生時の現価をライプニッツ方式に従って年五分の中間利息を控除して算定すると、次のとおり金七七〇万五五一一円(円未満切捨)となる。
190万4100円×10.1170×0.4=770万5511円
三 慰謝料 金一〇五〇万円
本件事故の態様、原告の前示年齢、性別、傷害の程度、治療の経過並びに後遺障害の部位、程度、将来の見通し(《証拠省略》によれば、原告が右外貌の故をもって心ない輩の嘲り、侮蔑更には暴行を受け、仲間はずれにされてきたことが認められる。)等を総合すると、本件事故により原告が被った精神的損害は、入・通院によるもの金五〇万円、後遺障害によるもの金一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
第四 損害の填補 金一一万七七九三円
原告が、被告らから川口市民病院及び虎の門病院の治療費の合計金一一万七七九三円の支払を受けたことは、原告の自認するところである。
第五 弁護士費用 金一八〇万円
原告(法定代理人)が本件訴訟の提起・追行を弁護士たる本件訴訟代理人らに委任したことは記録上明らかであり、右事実と弁論の全趣旨によれば、原告はその主張のとおりその費用報酬として金三〇〇万円の支払を約したものと認めることができるところ、本件における審理の経過及び認容額等に照らすと、原告の弁護士費用報酬支出による損害のうち、本件事故時の現価に引直して金一八〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害とするのが相当と認められる。
第六 過失相殺の主張について
被告こいずみ、同浜田は、原告の父太郎は甲車が駐車中の車両の向って左側を通過すべく乙車の走行している車線内に進入して接近してくるのを認めたのであるから、甲車の動向及び前方を注視し、事故の発生を防止すべく減速する等その場の状況に応じた適切かつ安全な運転をすべきであるのに、これを怠り、時速約三〇キロメートルで漫然と駐車車両の左側を通過しようとした結果本件事故が発生したのであるから、太郎の右過失を原告側の過失として斟酌すべき旨主張するが、前記第二の一1で判示した状況の下で、甲車が、指定された最高速度を時速一五キロメートルも超える速度で対向車線内に進入したまま走行することは極めて無謀な運転方法であって、これを予測せず、そのために、停止措置をとらなかったとしても、太郎に過失があるとは到底いえないから右被告らの主張は理由がなく、過失相殺すべき限りでない。
第七 結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、全被告に対し、各自二〇〇五万九一五一円(第三の一ないし三の合計金額から第四の填補金額を控除し、その残額に第五の金額を加えた金額)とこれに対する本件事故発生の日である昭和五五年八月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 野田武明 友田和昭)